スポーツ傷害のリハビリ/リコンディショニングの終わりは一体どのタイミングでしょうか?
選手の患部の痛みが消失した時?
選手が練習復帰した時?
選手がリハビリに飽きて、フェードアウトした時?(笑)
従来のメディカルベースのリハビリ的に考えるのであれば、選手が競技復帰した時点、もっと具体的にいうと制限なしで練習に完全復帰した時点で、その役目は終わりと考えることもできるかもしれません。
しかし、怪我からの競技復帰をパフォーマンスベースのリコンディショニングとして考えるのであれば、選手が練習復帰してからも、選手が怪我をする以前のパフォーマンスに戻るまでは我々の取り組みは継続することになります。
私の前職の恩師の一人であるであるBill Knowlesは、リハビリ/リコンディショニングのゴールを“Athletic Normal”と表現しています。
Athletic Normalついては詳しく以前の記事で書いていますので、そちらをご覧ください。
練習復帰後のリコンディショニングの重要性

Whiteley et al.(2020)は、競技に復帰すること(Return to Play)と元のパフォーマンスの状態(Return to Performance)に戻ることは同意ではないとしています。
当たり前のことを言っているようですが、意外と選手を練習に戻したらそこからはノータッチ、というケースは多く見られると思います。
その上でWhiteleyらは、Return to Playが達成されて選手が試合に復帰した後、多くの選手が傷害発生前と比べてHigh Speed Running (HSR)が不足することになることを指摘しています。
この報告をもとに考えると、競技復帰後もGPSなどを使って継続したモニタリングを行い、”少なくとも”本来のHSRのパフォーマンスに戻るまで、サポートが必要ということが言えそうです。
具体的にいえば、単純に競技の練習だけでそれがカバーできないのであれば、個別でHSRセッションを設ける必要があるでしょう。
RTP後にも継続したモニタリングを行わなければ、このような事象を見逃すことになってしまいます。
一方で、同一選手でも試合によってHigh Speed Runningにばらつきがあるため(Between-Individual variability)、どこに”Athletic Normal”もしくは”Return to Performanceの基準を置くかは非常に難しいところです。
いずれにせよ、練習に復帰し試合に出る様になった後も、その競技のKPIとなる指標、もしくはその怪我に関連するKPIを追い、不足があれば練習前後にプラスアルファのメニューを入れるなど、選手が怪我を再発することなくプレーできる様サポート体制を整えることが、理想のリコンディショニングではないかと考えています。
Athletic Normalの判断材料として使えるKPIは?

具体的に、競技復帰後にその選手が本来のパフォーマンスに戻ったであろうと判断する材料となりうるKPIはたくさんあると思います。
先にあげたHigh Speed Running Distanceなどはもちろん、1分間あたりの高強度運動の距離や、試合や特定のドリルに対する選手の心拍数の反応など(ディコンディションの状態であれば高強度アクションは減少するでしょうし、心拍数は通常よりも高くなるはずです)が挙げられます。
Raya-González et al. (2022)は、中度から重度(Moderate to Severe)の怪我をした選手は、復帰後の試合における到達最高速度 (Max Speed Achieved)が減少していたと報告しています。
サッカーにおける運動は、対戦相手やプレースタイルなどの環境や戦術に大きく左右されるところが大きいです。
それゆえに、一概に試合毎の同選手の運動パフォーマンスを比較して、怪我の影響を判断することは難しいと思います。
事実、Raya-Gonzálezらは、重度の怪我から試合復帰した選手が、怪我前よりもより高強度の運動、特にIntense Runningとhigh Speed Runningにおいて、より長い距離を走る傾向があったと報告しています。
怪我からトップフォームに戻る段階では、本来よりも走る距離は少なくなると考えるのが自然ではないかと思うのですが、様々な要因が重なって、怪我前よりもより多くの距離を走ることもある様です。
これは復帰後のモチベーションであったり、たまたま復帰して出場した試合が攻守の入れ替わりが激しいゲームだったからかもしれません。
しかしながら、Raya-Gonzálezらの報告の様に、競技復帰後に怪我の影響でランニングパフォーマンスに影響が出るということは、一要因としてあることは間違いありません。
前述の通り、試合というのは不特定多数の要素が選手の運動に影響するので、それをベースラインとして使うのは難しいかもしれません。
試合のパフォーマンスではなく、定期的に行う同一の練習ドリル内でのパフォーマンスを追っていくStandardized Drillという考え方もありますが、これについてはまた新たなブログ記事として紹介できればと思います。
上記の様なGPS的なデータの他にも、laboratory test的に筋力やパワーなどをKPIとして、その数値がベースラインに戻る様に継続したリコンディショニングを行うことも一つです。
この様なテストは、Return to Playの指標として練習復帰前に行われるイメージですが、練習復帰後もこれらの数値に異常が出ないか、継続して追っていく意義はあると思います。
まとめ
Reference
Raya-González, J., Pulido, J. J., Beato, M., Ponce-Bordón, J. C., López del Campo, R., Resta, R., & García-Calvo, T. (2022). Analysis of the Effect of Injuries on Match Performance Variables in Professional Soccer Players: A Retrospective, Experimental Longitudinal Design. Sports Medicine – Open, 8, 31. https://doi.org/10.1186/s40798-022-00427-w
Whiteley, R., Massey, A., Gabbett, T., Blanch, P., Cameron, M., Conlan, G., Ford, M., & Williams, M. (2020). Match High-Speed Running Distances Are Often Suppressed After Return From Hamstring Strain Injury in Professional Footballers. Sports Health, 1941738120964456. https://doi.org/10.1177/1941738120964456