トレーナー業界の教育・給与事情:アメリカメジャーリーグサッカーS&C、Sports Sientist編

前回の記事では、Sportsmithより発表されたイギリスプロサッカーにおけるStrength&Conditioning Coach (S&C Coach)とSports Scientistの教育や給与についてシェアしました。

筆者Twitterより

先日、そのSportsmithの方から、”続編”となるメジャーリーグサッカー(MLS)版が出ましたので、今回はそのレポートについてシェアします。

私も以前、MLSシステム内で約2年半働いていました。なので、アメリカサッカーの環境やその実態は割とイメージがつきますが、日本にいると「MLSって実際どうなの?」という感じで、イメージしにくい人も多いのではないでしょうか。

MLSは2021年現在、27のチームからなるアメリカプロサッカーのトップリーグで、2022年、2023年にさらに1チームずつ増えて29チームになる、とても大きなリーグです。

このMLSでは、近年大きな資本がどんどんサッカーに入ってきていて、新しいチームもどんどん増えていますし、またヨーロッパのビッグクラブで活躍する若手も多く輩出しています。

とはいえ、アメリカスポーツの花形はアメフトやバスケットボールであることは、まだ変わりがないと思いますし、スタッフへの待遇はサッカーよりも良い場所が多いのではないかと思われます。

それでは、スポーツ先進国のアメリカにおける、S&C CoachとSports Scientistの給与形態を見ていきましょう。

MLS Performance Staff Survey

Credit to Boston.com

A survey of strength and conditioning coaches and

sports scientists working in Major League Soccer

(MLS) to better understand the demographics and

salaries of these practitioners.

Sportsmith

Sportsmithのレポートで目を引かれた点は、MLSで働くパフォーマンススタッフの年齢です。イギリスなどで行ったその他の同類の調査と比較して、もっとも年齢層が若かったとのことです。

この調査の参加者は70人で、そのうちの約6割が32歳以下だったとのことですが、如何に若い人材に溢れていて、彼らにチャンスが回ってくるかが分かります。

注意する点としては、この調査にはアカデミー(育成)で働くスタッフも含まれているので、若い人の割合が多くなっているのもあると思いますが、それを差し引いても興味深い結果だと思います。

私個人の経験でも、MLSで働くSports ScienceやSports Medicineのスタッフは若い人が多い印象ですし、人材がとても流動的だと思います。

MLS自体が、発足して30年経っていないリーグなので、これがNBAやNFLだと多少事情が異なるかも分かりません。

因みに、私の前職のボスはSports Scientitstで、私の一歳上の方でしたが、なんと27-28歳の若さで、アカデミー職からトップチームのDirector of Performaceに抜擢されていました。

この様に、人材が流動的で若手にもチャンスが回ってきやすい環境は、ポジティブな側面が大きいですし、何より夢があるのではないでしょうか。

このレポートでは、若い人材が多い理由として、MLS内での仕事のポジションが多いこと(私の理解が正しければ、アスレティックトレーナーだけで各チーム3人置く決まりになっています)、アウェーの移動などの負担が大きいこと(単身の若い人の方が自由度が高い分、長時間でも働きやすい)などが可能性としてあると言及しています。

加えて、アメリカでは各スポーツ間の人材の移動が比較的多いこと、これらの職が高校や大学などでも非常に豊富なこと(特にS&C Coach)、キャリアを重ねるとマネジメント職を得られるチャンスが多いこと(例えば大学のAthletic Directorなどのポジション)などがあると思います。

MLSのパフォーマンススタッフの給与形態:ポジション(役職)別

Credit to Reddit

アメリカMLSにおける、パフォーマンススタッフの給与中間値 (Median)は$75,000(約847万円)で、なんとEnglish Premier Leagueなどよりも高かったとのことです。

さらに、70人の回答者のうち約6割弱はその給与が$60,000 (約678万円)以上だったということです。

しかしながら、アメリカは非常に物価が高いですし、教育費や医療費などを考えてもこの給与額は平均としては決して高いものではないと思います。

とはいえ、単純に日本の現状と比較した時、大きく開きがあることは見て取れるのではないでしょうか。

経済の実態が全く異なる国同士の給与を比べるのも難しいとは思うのですが、それでもこの数字を見ると、日本における我々の職業的価値はまだまだ発展途上だということを再確認させられます。

給与範囲(Salary Range)で見てみると、アシスタントポジションの平均が$47,700(約539万円)、ディレクターポジションで$199,000(約2316万円)と、当然ながら”ピンからキリ”であることが分かります。

とはいえ、アシスタントポジションでも日本の平均給与を超える給与であること、福利厚生もあるフルタイムポジション*であることを考えると、かなり恵まれた条件であることは間違い無いと思います。

対照的に、少なくともJリーグ内では、フルタイム契約で働く人はほとんどおらず、多くが業務委託契約であると考えられます。

*今回のレポートにこの手の報告は記載されていませんでしたが、私自身の契約も業務委託ではなくフルタイム契約でしたし、周りもそうだったのでこの情報におそらく間違いはないかと思います。

MLSのパフォーマンススタッフの給与形態:学位別

Credit to The Athletic

次に、パフォーマンススタッフの最終学位別の平均給与です。

  • 学士(Bachelors):$67,300(約760万円)
  • 修士(Masters):$75,600(約854万円)
  • 博士(Doctoral):$119,000(約1344万円)

前回シェアしたイギリスサッカー界の給与調査の時もそうでしたが、当然ながら学位が上がるにつれて給与水準は上がっています。

前回記事

より高い学位をとっている人ほど年齢が高いだろうという予測を考慮しても、このレポートの回答者達の平均年齢が30代ということを考えると、非常に良い待遇であると言えるのではないでしょうか。

アメリカは本当に広いので、住む地域によってかなり生活費にばらつきが出ます。例えば、カルフォルニアやニューヨークのチームで働けば、自ずと生活費もかかるため、その分給与をあげてもらわないとそもそもUnfairです。

なので、そういった地域のチームに所属するスタッフの給与が、平均を釣り上げているという可能性もなくはないですが、それを差し引いても、パフォーマンススタッフの職域がしっかりと確立されていることが窺える給与水準ではないでしょうか。

まとめ

  • MLSのパフォーマンススタッフの給与中央値(Median Value)は$75,000(約847万円)。
  • ポジション別の平均給与は$47,700(約539万円)から$199,000(約2248万円)と広範囲に分布。
  • 学位が上がるほど給与が上がる点は、イギリスサッカーと共通。
  • 全体として若いプラクティショナーが多いことを考えると、給与水準は非常に高い。

以上、SportsmithによるMLSパフォーマンススタッフの給与水準についてシェアしましたが、アメリカは夢のある国だと改めて時間しました。笑

日本のスポーツ界も同じ様になれば、と思うもののそもそも経済的に全く異なる国同士であるため、同じことを期待するのは難しいかもしれません。

それでも、我々一人一人が、この業界がよくなるために行動し、自分たちの価値を示していかなければ、何かが変わることはないと思います。

アメリカの様に、日本において私たちの職種がもっと認められて、それに相応しい対価をもらえるように、自分たちで切り開いていくしかありません。

If you want to go fast, go alone. If you want to go far, you go together.

未来ある学生さん達が、希望を持って入って来られる業界にできるよう、現役世代みんなで進んでいきましょう。

(でかいこと言ってすみません。笑)

Akira

Reference

Major League Soccer (MLS) performance staff survey. (n.d.). Sportsmith. Retrieved December 21, 2021, from https://www.sportsmith.co/reports/major-league-soccer-mls-performance-staff-survey/

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