アスレティックトレーナーとして必ず知っておきたい雷雨時の対処: Lightning Action Plan

スポーツ現場における、アスレティックトレーナーの最大の役割は多岐に渡りますが、選手の安全を確保し、命を守ることを忘れてはなりません。

その中で突然心臓死 (Sudden Cardiac Death)のような、Emergency Careも大切ですが、スポーツ現場にはその他たくさんの危険が潜んでいます。

今日のトピックである「」も、一歩間違えば命に関わる危険があることを忘れてはいけません。

サッカー少年団での記憶

Photo by Lucas Allmann on Pexels.com

もう20年も前の個人的な体験談になりますが、小学生時代にものすごい雨と落雷の中でサッカーの試合をやっていたのが、今でも記憶に残っています。

ずっとピカピカ・ゴロゴロとなっていたのですが、そんな土砂降りの雨の中試合は進められました。

ちょっと怖いなあと子どもながら感じていたと思うのですが、ある時ピカっと光ったかと思った瞬間にドカーンと数百メートル先に雷が落ち、ものすごい音と地響きを感じました。

記憶する限り、この雷が自分自身が最も至近距離で体験した雷ですが、一向にサッカーの試合が中断されることなく、今考えると本当に危ない状況だったとおもいます。

(流石にこの至近距離の落雷の後、試合は中断されました。)

落雷による死亡事故

Photo by Pixabay on Pexels.com

対策を怠って、実際に死亡事故や後遺症による重度の障害が残るケースもあり、それに伴った訴訟も過去にある様です。

選手の命を預かるアスレティックトレーナーはもちろん、スポーツ指導者も雷の危険性を理解し、対処法を学ばなければなりません

National Athletic Trainers’ Association (NATA)のポジションステイトメント(Walsh et al., 2013)では、2006年から2011年の間に210人が落雷によって死亡したと報告しています。

この数字は、スポーツ中の事故によるものだけではありませんが、一年に30件以上の落雷による死亡事故が起きていると考えると、その危険性を無視することは決して出来ません。

NATAが推奨する落雷に特化したEmergency Action Plan

Photo by Pixabay on Pexels.com

NATAのポジションステイトメントでは、落雷に特化した緊急対応プラン(Lightning Specific Emergency Action Plan)の必要性を唱えた上で、以下の項目をそのEAPに含めるべきだとしています。

  • 雷の危険性に対するスローガンを広めること
  • 雷発生時に避難等の決定を下す責任者の指揮系統 (Chain of Command)
  • 現地の天気をモニタリングするための正確なツールの使用について
  • 落雷時の避難場所について
  • スポーツ活動を中止・再開する際の判断基準 (Criteria)について

緊急時に誰が決定を下すのか、事前に明らかにしておくことは非常に重要です。いざ雷雨が発生して「誰が決めるの」と右往左往している猶予はありません。

また、スポーツが行われている周辺の天気を正確にモニタリングできるツールを準備しておくことも必須事項です。

今はスマホアプリが発達しているので、天気アプリでもかなりことが足りると思います。

個人的によく使っていたのはWeather Bugというアプリです。アメリカ時代に使っていたものですが、雷がどれくらい離れた距離に落ちたかを確認することができます。

Weather BugのLightning Alert

雷雨時の避難場所を決めておくことも非常に大切です。ポジションステイトメントによると落雷時にも安全な避難場所としては、学校や図書館などの建物や、自動車などのそれに当たります。

これらの避難場所をあらかじめ把握した上で、緊急時に避難が可能であることの確認をとっておくこと(施設とのコミュニケーション等)も大切だとされています。

雷雨時のスポーツ活動の中止・再開の判断基準

Photo by Jenny Uhling on Pexels.com

本記事のメインポイントですが、いざ天気が突然悪くなった時に、いつ中止の判断をするべきかというのは悩む点だと思います。

スポーツ活動を中止するべきタイミングは落雷がスポーツ活動が行われている施設周辺約10kmの範囲で起こったときです。

更に厳密に言うと、10km圏内に落ちた時にはすでに自分自身は危険な範囲にいるので、危険圏内に落雷が発生する前段階で避難を考えなければなりません

少しオールドスクールな手段にはなりますが、雷がピカッと光ってから30秒以内に音が聞こえた場合がこれに当てはまります。

音の伝わるスピードは秒速約340mですから、これに30秒をかけるとおおよそ10kmという計算になります。

もう少し、客観的に落雷の危険を評価するのであれば、前述のWeather Bugの様な、周辺で起きている落雷の距離を確認できる携帯アプリを使うのが有効です。

実際、Scarneo-Miller et al. (2021)が行った、アメリカ国内の高校を対象にした調査では、365人の調査対象者のうち70%以上のアスレティックトレーナーが、なんらかの携帯アプリを使用していると回答したと報告しています。

日本製のアプリでWeather Bugの様に使えるものは、私が探す限りは見つかりませんでしたが、Weather Bugは日本国内でも使用可能なので一度使ってみるのも良いのではないでしょうか(表記は英語ですが操作は非常に簡単ですし、一度使い方を覚えてしまえば問題ないかと思います)。

10km以内での雷雨が予想される場合や、実際に落雷が確認された場合には、スポーツ活動を中止し、既定の避難場所に避難するわけですが、NATAのポジションステイトメントによると、その後のスポーツ活動の再開の目安は最後の10km範囲内の落雷から30分経過後になります。

30-30ルールとも呼ばれますが、目視での確認は30秒、最後の落雷からの待機時間は30分ということになります。

30-30と覚えておくと非常に覚えやすいと思います。携帯のアプリ等が活用できない場合はこちらの法則を使うと良いかと思います。

とても大切なことですが、落雷発生後のスポーツ活動の再開は、危険範囲内で起きた最後の落雷から30分後です。

つまり、落雷が起きるたびにその30分のカウントを再度やり直すことになります。

なので、20分待ったのにまた雷雨がやってきて雷が鳴ったら、そこから再度再会を延長しなければなりません。

なので、天気予報の雨雲レーターなどを最大限に活用して、いつまで待つか、という判断も時に必要になってきます。

とはいえ、アスレティックトレーナーは気象予報士ではないので、自身の予測にも限界があることをしっかり理解しなければなりません。

事前にLightning Action Planを組織内で共有しておくことの大切さ

Photo by cottonbro on Pexels.com

雷に特化したEAPはLightning Action Planとも呼ばれますが、まずは通常のEAPと同じく、雷雨時に備えて対応策をあらかじめまとめ、組織内で共有しておくことが大切です。

例えば、スポーツ活動における大きなStakeholderであるコーチ・スポーツ指導者への事前コミュニケーションは必須です。

どのスポーツ組織でもコーチがある一定の決定権を持つため、いくらアスレティックトレーナーが、雷がなっているから練習を中止すべきだ、といったところで聞いてもらえないケースは往々にしてあります。

なので、事前にこういったスタッフとコミュニケーションをとり、落雷の危険性について教育するとともに、確実なコンセンサスをとっておくことが非常に大切です。

アメリカ時代の話ですが、lightning Action Planを作った上で、同意書を添えてコーチ陣に説明をして、最後に雷雨時にATが下す決断に従うことに同意するサインをもらうこともありました。

「同意書にサインだなんて。。。」とびっくりするかもしれませんが、選手の命に関わる判断を客観的に下せるのは、スポーツ現場の安全を管理する我々アスレティックトレーナーだけです。

もちろん、アメリカが訴訟社会で、アスレティックトレーナーが自分自身の身を守る、という意味合いもありますが、事前にこの様に一種の「約束」を交わしておくことでいざというときにスムーズにLightning Action Planを実行することができます。

まとめ

  • 雷雨が10km圏内に迫ったら、直ちにスポーツ活動を中止し避難場所へ。
  • 最後の雷から30分が経過するまではスポーツ活動は再開しない。
  • 携帯のアプリなど、天気をモニタリングするツールを使用すると良い

これからの季節雷も多くなってくると思います。何より近年はゲリラ豪雨と呼ばれる様な、突然の天気の変化が日本国内でもよくみられる様になっているので、事前のLightning Action Planがより大切になってきます。

全ては安全なスポーツ活動のため、そして何より選手の命を守るためです。

当たり前の様で、意外と広まっていない雷に対する知識が広まることを願います。

Akira

Reference

CDC. (2021, June 21). Lightning Safety. Centers for Disease Control and Prevention. https://www.cdc.gov/nceh/features/lightning-safety/index.html

Scarneo-Miller, S. E., Flanagan, K. W., Belval, L. N., Register-Mihalik, J. K., Casa, D. J., & DiStefano, L. J. (2021). Adoption of Lightning Safety Best-Practices Policies in the Secondary School Setting. Journal of Athletic Training, 56(5), 491–498. https://doi.org/10.4085/175-20

Walsh, K. M., Cooper, M. A., Holle, R., Rakov, V. A., Roeder, W. P., & Ryan, M. (2013). National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Lightning Safety for Athletics and Recreation. Journal of Athletic Training, 48(2), 258–270. https://doi.org/10.4085/1062-6050-48.2.25

コメントを残す