2021年版米国アスレティックトレーナーの給与実態

アメリカのアスレティックトレーナー(通称BOC-ATC以下ATCと記載)からなる組織、National Athletic Trainers’ Associationから、今年の初めに2021年給与調査結果が報告されています。

NATAのWebページにはMembers Onlyとの記載がありますが、実際は2021 NATA Salary Surveyと検索すると、その給与実態調査の結果がPDF出てきますので、特に将来ATCを目指している人、まだインターンとして下積みをしてこれからキャリアアップを図っていきたい人には非常に参考になる内容だと思います。

また、現在ATCとして働いている人にも、契約交渉などの場で持ち寄れる重要な資料になると思います。

NATAの報告をそのまま訳す様な形にはなりますが、大切な調査報告ですし、日本国内のアスレティックトレーナーにも本国の現状を届けられたらと思います(米国在住風ですが、筆者も日本にいます。笑)。

2008年からの米国アスレティックトレーナー給与平均の推移

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同調査によると、2008年から2021年にかけて、ATCの平均給与は17,000ドル以上も増加しているとのことです。

経済の専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、近年アメリカで起こっているインフレを考慮したとしても、実質賃金が上がっているということは、米国アスレティックトレーニング会全体の長年の努力の賜物ではないでしょうか。

更に、前回の調査が行われた2018年と2021の平均給与比較でも、$4,795 (+8%)の増加が見られたとのことです。 

Doctor of Athletic Training (DAT)の拡大もあり、この上昇傾向はDoctoral levelのアスレティックトレーナー達が引き上げているのだろうと思ったのですが、そうでもない様です。

実際には、2018年から2021年の間で学士号(Bachelor’s degree)のみを持っているATCの平均給与の伸びが+9%と一番大きかったとのことです (Master’s degreeが7%、Doctoral degreeが8%)。

よって、単純にアスレティックトレーニングにおける学位レベルの押し上げだけではなく、アメリカ社会の中で業界全体の価値が年々上がっているとも言えるかもしれません(これほど嬉しいことはない!)。

他のHealth Care Practitioners/Technical Occupations (例えば理学療法士; PTや作業療法士; OT、看護師など)と比べると、その平均給与には大きな開きがあるとのことです。

実際に、ATCの平均給与の$61,998に対してその他の医療従事者は$85,900と、ATCが遅れをとっています。

しかしながら、アメリカ国内の全職種と比較した場合には、ATCの平均給与の方が上回っているとのことでした。

ちなみに、同調査による米国の全職種における平均給与所得は$56,310。日本のアスレティックトレーナーの平均給与が、全職種を含めた国内平均給与に及ばない現状を考えると本当に素晴らしいことだと言えます。

過去に、日本スポーツ協会が行った日本におけるアスレティックトレーナーの調査ついて記事にしています。日本におけるアスレティックトレーナーの資格についてはこちらをご参照ください。

アメリカにおける地域別・経験年数別平均給与

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地域別では、カルフォルニアやハワイを含むDistrict Eightにおける平均給与が一番高かったと報告されています。

その金額は$73,635と全米平均よりも高水準ですが、カルフォルニアやハワイの物価などを考えると決して高くはないはずです。

次いで、マサチューセッツやコネチカットなどを含むDistrict One ($66,438)、テキサスやアーカンソーを含むDistrict Six ($66,193)、ニューヨークや筆者が直近で住んでいたペンシルベニアなどを含むDistrict Two($66,080)と続きます。

個人的にテキサス、アーカンソーの地域が2番目にきていたのは意外でしたが、テキサスは高校などでもかなり良い給与で働くことができます

テキサス大学院時代の同期も、大学院卒業後すぐにテキサスの高校で働き始めましたが、解剖学などの授業を教えるのを込みで、上記に近い金額をATC一年目でもらっていたと思います(修士号を取っているので当然の対価といえばそれまでですが、夢がありますねー。笑)

次に経験年数別の給与平均ですが、当然ながら経験年数が長くなればなるほど給与は上がります。

同調査のハイライトとして、経験年数一年以下のATCの給与が2018年の$38,651から$43,924と、$53,00近く上昇していたとしています。

ここにもアスレティックトレーナーの社会的価値の高まりが現れているのではないでしょうか。

性別・職場別平均給与

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男女比較においては、相変わらず女性の平均給与が低い結果となっていると報告されています。

2016年から2018年間には縮まりつつあった男女差は、2018年から2021年の間に約$11,000に広がったとのことです。

これらの原因としては、女性の調査対象者の方が年齢の若い人が多かったこと、それに付随して管理職についている割合が低いことやキャリアが男性と比較して短いことなどがあげられています。

また、ATCの職場として、大学や病院、高校などが上位に入るとした上で、大学の教員や研究員が平均給与$84,378と最も高い給与を得ていると報告しています。

特に教員や研究者は博士号であるPhDを持っている人が多いので、給与が高くなるのは必然です。

これに高校の教員やそのAthletics (運動部)におけるATCとしての職が、平均給与$64,436と続いています。

意外、でもないですがプロスポーツの職は同調査が定義するTop Ten Popular Job Settingsには入っていませんでした。

個人的にはプロスポーツにおけるATCの平均給与も気になりますが、おそらく高校と大学の平均給与の間くらいではないかと予想しています。

 2021 Salary Survey Executive Summary 

リストを見て改めて感じましたが、アメリカはATCが働ける職場環境が多様ですね。

その他福利厚生

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日本では、アスレティックトレーナーがフルタイムとしてそれだけで生計を立てていける職場はまだまだ少ないですが、アメリカにおけるATCはフルタイムで働ける職場が豊富です。

その福利厚生として健康保険退職金制度(Retirement Plan)は、ほとんどのATCが受け取っていると回答しています。

特筆すべきは、Continuing Educationと呼ばれる資格取得後にも勉強を継続するためのお金が補填されると回答した人が71%もいることです。

ATCになった後も、継続して勉強しなければ科学の進歩にはついていけませんから、そういった継続学習や知識のアップデートにも予算が当てられるというのは非常に魅力的ですし、私自身もどの職場に行ってもこの恩恵を受けていて、そのありがたみを常に感じていました。

中には大学院等に進学するコストを負担してくれる職場もあります。これは修士号や博士号を取ったりすることが該当します。

この点に関しては、アメリカ社会全体としてこういったシステムが広がっていることが大きいかもしれません。

日本社会でもこの様な制度はみられるところもあるかと思いますが、少なくともアスレティックトレーニングの世界ではないことでしょう。

人的資本を高めるために、日々の勉強は必須ですし、雇う側の組織として人材投資にお金が回る様な世の中になって欲しいものです。。。

ATCは資格更新費や学会費など、毎年多くの出費がありますが、この辺りもほとんどの職場がカバーしてくれます(残念ながら日本では考えにくいですね。。。悲しいかな)。

まとめ

  • 2008年の調査開始から、ATCの給与は右肩上がり。大学職が最も平均給与が高い。
  • 生活コストが高い地域ほど、平均給与も高くなる傾向。
  • Entry Level (特に新卒) の給与も上昇傾向にあり、ここに業界全体としての成長がみられる。
  • 男女差は依然として課題。福利厚生の充実度は圧倒的。

今回はアメリカにおけるアスレティックトレーナーの給与事情について、NATAが行った調査をまとめました。

思い返せば、ATCを目指していた時に給与について深く考えた記憶はほとんどありません。

誰も教えてくれなかった、というのも事実ですが、そもそもそういう話をするのが難しいということもあるかもしれません。

しかしながら、自分自身が幸せでなければ職業として持続的にアスレティックトレーナーを続けることはできません。

仕事に見合った対価を受け取ることができる世の中であるべきですし、業界としてもそうあって欲しい、そうなっていって欲しいと願っています。

そう考えるとアメリカのNATAの長年の努力によって今の米国のアスレティックトレーニング業界の発展があるのだなと実感させてくれる調査結果ではないかと思いました。

アメリカにおけるアスレティックトレーニングの発展の経緯を辿るたびに感じますが、結局は当事者であるアスレティックトレーナー達が行動し、自分達の価値を示し続けるしかないのだと、改めて思いました。

業界みんなで頑張っていきましょう。

Akira

Reference

“Salary Survey.” NATA, 11 Apr. 2022, https://www.nata.org/career-education/career-center/salary-survey.

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