運動性筋けいれんに関する最新のレビュー

最近暑い日が続いてますね、、、と書き始めようとしてからなかなか筆が進まず、気づいた頃には梅雨入りしてしまっていた私です。。。笑

本当に暑い日々が来るまでに、まずは長い梅雨を越えなければなりませんが、5-6月時点で既に真夏日になるところも出てきており、全国で熱中症の発生がニュースにもなっています。。

夏本番はまだ先になりますが熱中症には注意が必要です。

熱中症に関連して熱けいれんも増えてくる季節ですが、今日は運動性筋けいれん; Exercise-Associated Muscle Crapms(以下EAMC)について興味深いレビューが出ていたので、その内容をシェアしたいと思います。

運動性筋けいれんのエビデンスレビュー

Miller et al. (2021)

Journal of Athletic Trainingより、2022年の一月にEAMCに関する最新のレビューが発表されています。

一時期EAMCについて集中的に文献を読み漁っていた時期があったのですが、それも数年前のことで最近はあまり文献を読んでいませんでした。

最近、季節柄EAMCに出くわすことが増え、また知識のアップデートをしていたところでうってつけの文献を見つけました。

本文献ではEAMCが起こるメカニズムについて、現在まで引用されてきた理論と新たな理論について書かれています。

それらをサクッと紹介したいと思います。

Dehydration and Electrolytes Imbalance Theory; 脱水及び電解質アンバランス理論

運動中に脚をつるのがEAMCですが、“一般的”には「汗をたくさんかいて脱水したから」とか「水分補給がしっかりと出来ていない」、「塩分不足だからだ」と言われていると思います。

なので、スポーツ指導者や実際にプレーしている選手達も、脚がつらないように練習や試合前などに水やスポーツドリンクをいっぱい飲む様にしたり、ちょっとオールドスクールなところで言うとそのまま塩を舐めたり、水分や電解質に関連した対策をすることが多いと思います。

脱水及び電解質の不足とEAMCの関係性を支持する研究は100年以上に渡って行われてきている様ですが、同理論をサポートする研究の主な項目には、発汗率 (Sweat Rate/Fluid Loss)、発汗を通じた塩分(Sodium)や塩化物(Chloride)の減少、体重減少(Body Weight Loss)などが含まれています(Bergeron, 2003; Stofan et al., 2005; Ohno et al., 2018)。

運動直前後の体重を測ることによって、脱水量を推定する方法は比較的広く使われているかと思いますが、アメリカのスポーツドリンク会社のゲータレードからは、発汗パッチ (Sweat Patch)を使って発汗率や汗に含まれる電解質を分析できる様なものも出てきているようです。

Gatorade社のSweat Patch

一方で、脚をつった選手とそうでない選手を比較した上で、血漿内の電解質バランスや体重減少に違いがなかったと報告する研究もあり、同理論の不確実性が示唆される結果になっています(Maughan, 1986; Schwellnus et al., 2004; Schwellnus et al., 2011)。

Altered Neuromuscular Control ;神経筋コントロール異常理論

Photo by Ketut Subiyanto on Pexels.com

水分や電解質の不足や減少をEAMCの理由とする理論に対して、ここ10年ほどでそれに変わる理論として神経筋コントロール異常理論が研究されてきています(日本語で的確に訳すのは難しいですね。。。)。

この理論は、運動による疲労等が原因で、骨格筋をコントロールするアルファ運動神経(α motor nerve)の興奮と抑制のバランスが崩れることによって、異常な筋けいれんが起こる、というものです (Schwellnus, 2009)。

簡潔に言うと、筋肉を収縮させる信号と、筋肉を弛緩させる信号のバランスが取れなくなり、筋肉を収縮される信号が必要以上に送らてしまった結果、筋肉が緩むことが出来ずにずっと収縮したまま、いわゆる「つった」状態になるということです(全然簡潔じゃないですね。笑)。

EAMCと神経筋コントロールの異常については、脚をつらなかった被験者(Noncrampers)のほうが筋活動を制御(Inhibition)する信号がより大きかったとする研究(Khan & Burne, 2007)や、前述の様に脱水や電解質のバランスに拘らずEAMCが発生したという研究 (Miller et al., 2017)などから、その関連性が示唆されているようです。

一方で、よくトレーニングを積んでいて疲労に対しての耐性があるアスリートであっても脚をつることがあるということや、トレーニング歴とEAMCの発生との関連がないとする研究報告から(Schwellnus et al., 2011;Shang et al., 2011)、疲労に起因した運動神経の興奮と抑制のアンバランスだけでは、EAMCの説明はつかないとMillerらは同レビューで結論づけています。

Multifactorial Theory; 多要因理論

Miller et al., 2021

以上、二つの理論を踏まえた上で、同レビューでは脚がつる原因をどちらか一方に求めるのではなく、いくつもの要因が絡み合っているとする多要因理論を紹介しています(しつこい様ですが、日本語に訳すとなんかしっくりきませんね。。。)。

当たり前と言えば当たり前ですが、病気にしろ、スポーツ傷害にしろ、これらが起こる原因は一つでないことがほとんどです。

とてつもなく暑い天候の中で試合をしても脚をつらないときもあれば、慣れない地で慣れないグラウンドコンディション(例えば普段天然芝で練習している中で、人工芝でプレーするなど)で試合をした時に、普段脚をつらない選手が急に吊ってしまったりと言うことは往々にしてあることだと思います。

このモデルMultifactorial TheoryではIntrinsic factorsExtrinsic factorsとして、EAMCが発生する原因を内的要因と外的要因に分けています。

内的要因には怪我などによる痛み、フィットネス不足や睡眠不足などに起因した筋疲労、ストレス等による中枢神経異常 (Altered Central Nervous System; CNS)などがあり、外的要因には高温多湿の気候などが挙げられています。

注目すべきは、これら一つ一つの要因が必ずしも筋けいれんを引き起こすわけではなく、 選手個々人が持つ内的な要因と外的な要因が相互に関連して起こると言うことです。

なので、筋けいれんをよく起こす選手のマネジメントとして、水分補給だけをケアしても不十分であり、そのほかに選手がどの様な内的要因=筋けいれんのリスクを内包しているかを洗い出さなければ根本的な解決にはつながらないと言うことになります。

まとめ

  • 筋けいれんが起こるメカニズムとして、長く脱水や電解質のアンバランスがいわれてきたが、現在では神経筋コントロールの異常を含む、多数の要因に原因を求めることが言われている。
  • 神経筋コントロールの異常は、内的要因と外的要因から影響を受け、結果的に筋肉の収縮と弛緩の不均衡が起こることにより発生する。
  • 水分補給などの単一的な対処ではなく、選手個々人のリスクファクターを特定し、総合的にアプローチすることが大切。

余談ですが、本記事で取り上げられているAltered Neuromuscular Control Theoryについて私が知ったのは2016年のことだったと思うのですが、その解決策として辛いものや酸っぱいものを口にすると良いと言うことで、よく脚をつる選手にはHot Shotというドリンクを飲ませていました。

とんでもない味のHot Shotと呼ばれるドリンク

とんでもなく不味くて(中咽頭反射; Oropharyngeal Reflexを起こすためにスパイスが入っていて辛い。この反射がα motor nerveの過剰な興奮を抑えるとされている。)、選手には大不評だったのですが、試合中につった時に飲ませたり、試合前の予防として飲ませたりしていました (そして不味いわりに色々入っているので値段が高い。笑)。

割と一定の効果があったと思いますが、選手の好みに大きく左右されるのであまりお勧めはしませんが、理にかなった商品ではあると思います。

ちなみにアメリカだとピクルスジュースなんかもよくスポーツ現場で見かけますが、これも同じ原理になります。

ピクルスジュース

話がそれましたが、今回の記事を通して「脚がつるのって単純に水分不足とか塩分不足が原因じゃないんだ」という気づきを得ていただければ何よりです。

紹介した内容以外にも、EAMCについて様々な内容がまとめられているレビューなので、是非読んでみてください。

Akira

Reference

Bergeron, M. F. (2003). Heat cramps: Fluid and electrolyte challenges during tennis in the heat. Journal of Science and Medicine in Sport, 6(1), 19–27. https://doi.org/10.1016/s1440-2440(03)80005-1

Khan, S. I., & Burne, J. A. (2007). Reflex inhibition of normal cramp following electrical stimulation of the muscle tendon. Journal of Neurophysiology, 98(3), 1102–1107. https://doi.org/10.1152/jn.00371.2007

Maughan, R. J. (1986). Exercise-induced muscle cramp: A prospective biochemical study in marathon runners. Journal of Sports Sciences, 4(1), 31–34. https://doi.org/10.1080/02640418608732095

Miller, K. C., Long, B. C., & Edwards, J. E. (2017). Muscle cramp susceptibility increases following a volitionally induced muscle cramp. Muscle & Nerve, 56(6), E95–E99. https://doi.org/10.1002/mus.25562

Miller, K. C., McDermott, B. P., Yeargin, S. W., Fiol, A., & Schwellnus, M. P. (2021). An Evidence-Based Review of the Pathophysiology, Treatment, and Prevention of Exercise Associated Muscle Cramps. Journal of Athletic Training. https://doi.org/10.4085/1062-6050-0696.20

Schwellnus, M. P., Nicol, J., Laubscher, R., & Noakes, T. D. (2004). Serum electrolyte concentrations and hydration status are not associated with exercise associated muscle cramping (EAMC) in distance runners. British Journal of Sports Medicine, 38(4), 488–492. https://doi.org/10.1136/bjsm.2003.007021

Schwellnus, M. P. (2009). Cause of exercise associated muscle cramps (EAMC)—Altered neuromuscular control, dehydration or electrolyte depletion? British Journal of Sports Medicine, 43(6), 401–408. https://doi.org/10.1136/bjsm.2008.050401

Schwellnus, M. P., Allie, S., Derman, W., & Collins, M. (2011). Increased running speed and pre-race muscle damage as risk factors for exercise-associated muscle cramps in a 56 km ultra-marathon: A prospective cohort study. British Journal of Sports Medicine, 45(14), 1132–1136. https://doi.org/10.1136/bjsm.2010.082677

Schwellnus, M. P., Drew, N., & Collins, M. (2011). Increased running speed and previous cramps rather than dehydration or serum sodium changes predict exercise-associated muscle cramping: A prospective cohort study in 210 Ironman triathletes. British Journal of Sports Medicine, 45(8), 650–656. https://doi.org/10.1136/bjsm.2010.078535

Shang, G., Collins, M., & Schwellnus, M. P. (2011). Factors associated with a self-reported history of exercise-associated muscle cramps in Ironman triathletes: A case-control study. Clinical Journal of Sport Medicine: Official Journal of the Canadian Academy of Sport Medicine, 21(3), 204–210. https://doi.org/10.1097/JSM.0b013e31820bcbfd

Stofan, J. R., Zachwieja, J. J., Horswill, C. A., Murray, R., Anderson, S. A., & Eichner, E. R. (2005). Sweat and sodium losses in NCAA football players: A precursor to heat cramps? International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 15(6), 641–652. https://doi.org/10.1123/ijsnem.15.6.641

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