前回の記事で紹介した、Lahti et al. (2020)らの提唱するハムストリングの包括的予防プログラムについてですが、非常に多くの人に読んでいただきありがたい限りです。
ハムストリングの怪我はプロスポーツはもちろん、競技レベル関係なく起こります。
多くの方が頭を悩まされる怪我だからこそ興味を持っていただけたのではないかと思います。
今回は前回のブログに続く形で(だいぶ遅くなりました。。。)、Lahtiらが提唱するフレームワークを実際に用いた研究結果を発表していたので、その文献を簡単にご紹介できればと思います。
ハムストリング肉離れに関連する要因のスクリーニングプロトコル。その実施と傷害発生調査。

Lahti et al. (2022)はフランス一部リーグとフィンランド一部リーグに所属する全161人のプロサッカー選手を対象に研究を行っています。
1シーズンを通して、ROM, Strength, Lumbo-pelvic control (LPC), Horizontal force production capability (F0)の4項目を測るための11のテストを実施しています。
(結構多いですね。例えばこれをチーム単位でやるとなるとまずまずの人手が必要になると思います。。。)
それら11項目のテストは以下の通りです。
- Pelvic movement in normal gait (通常歩行における骨盤の動き)
- Peak pelvic anterior/posterior tilt and obliquely during walking (歩行時の最大骨盤前傾/後傾及び傾斜角)
- Sprint kinematics (スプリントキネマティクス)
- Thigh angle during touchdown and toe off in maximal upright sprinting (最大スプリントにおける接地時と離脚時の大腿角度)
- Hip extensor isolation strength (股関節伸展筋力)
- Knee flexor isolator strength (膝関節屈曲筋力)
- Hamstrings extensibility (ハムストリングスの組織的伸長性)
- Hamstring extensibility in combination with hip flexors (股関節屈曲筋群と併せたハムストリングスの組織的伸長性)
- Dynamic posterior chain strength during maximal sprint acceleration (最大加速時における動的下肢後面筋力)
訳すだけで疲れました。笑
これらのテストをシーズン前に行い、その後シーズン中にハムストリングの怪我が起こったかどうかを追ったのが本研究です。
研究結果: ハムストリング肉離れに関連するメジャー要因と怪我の発生

まずハムストリング肉離れの怪我として、研究内で発生した70パーセントがスプリント中に発生し、その8割が大腿二頭筋(Biceps Femoris)に集中していたとのことです。
スプリント中に起こるハムストリングの肉離れでは大腿二頭筋の損傷が多いことは他の研究でも言われていることです。
次に、本研究の肝となる複合的なスクリーニング結果と怪我の発生について。
既述の項目の中で、シーズンを通してハムストリング肉離れと関連のあるスクリーニングはなかったと報告しています。
一方でプレシーズンからミッドシーズンに限定してみると、水平方向への筋力(Theoretical Maximum Horizontal Force; F0)がハムストリングの怪我との関係性がみられたのことでした。
Horizontal Maximum Force Production: 水平方向の最大筋力とハムストリング肉離れの関係性
本研究の筆者は水平方向への筋力の指標が有効なハムストリングスクリーニングになるとしています。
これは、水平方向への力発揮の比重が大きい加速時に、ハムストリングスが重要な役割を果たすことと関係しています。
従来のハムストリングの筋力テストは、ノルディックハムストリングなどのエキセントリックな筋力やアイソメトリック収縮における筋力発揮などの「静的な」スタイルが多く、ランニングなどのダイナミックな動きの中でのストレングスを測るスクリーニングはなかったと筆者は述べています。
また、筆者も触れていますが、この指標の良いところはGPSなどを用い、”In Situ”でトレーニングや試合のデータを用いてスクリーニングを行うことができる点です。
言い換えるとわざわざスクリーニングテストのためにその場をセッティングする必要がありません(個人的な経験として、in Situの運用で出てくる問題にも気づきましたが。。。)
GPSのデータがあればForce Velocity Priofileを出すことができるので、あえてテストに時間を割かなくて良いのが非常に便利な点です(gpsデータの処理には多少の手間は要しますが)。
GPSに加えて、1080 Motionのように(一時期大谷翔平くんがドジャースで使っていたことにより話題になりました)、ワイヤーを腰に着けて走ることにより水平方向への力発揮を測定するような機材もより身近になってきています。

同様に、Eduardo et. al (2021)もサッカー選手を対象にした研究で、水平方向への筋力発揮の低さとハムストリングの怪我の発生の相関が見られたと報告しています。
さらに同研究では水平方向への筋力が1N/kg下がる毎に、約2.6倍ハムストリングのケガのリスクが上がったとも報告されています。
おもしろいのは、本来多くのハムストリングの肉離れ、特に大腿二頭筋の肉離れに見られるHigh velocity下での筋力発揮(V0; 最大速度筋力)の低さは関連が見られなかったと言うことです。
以前の記事でも触れている、スプリントが”vaccine”となるのはよく知られていますが、それに加えて、low velocity, high forceにフォーカスしたトレーニングも非常に大切と言うことがいえそうです。
例えばスレッドプルやスレッドプッシュなどはとても良いトレーニングになるのではないでしょうか。
まとめ
- フットボールのシーズンを通して、ROM, Strength, Lumbo-pelvic control (LPC), Horizontal force production capability (F0)のいずれもハムストリングス肉離れとの関係性は見られなかった。
- 期間を絞って見ると、水平方向への筋力発揮が低いほど、ハムストリングス肉離れのリスクが高くなる傾向がみられた。
- ハムストリング肉離れの予防に置いて、水平方向への筋力発揮を高めることが効果的である可能性がある。
ハムストリング肉離れの予防といえばHigh Speed Runningという印象でしたが、最近のFV Profilingの研究によりlow velocityでの力発揮の重要性も叫ばれるようになっているようです。
水平方向への筋力発揮だけが必ずしも絶対的な指標ではないですが、ツールボックスに入れられる一つの小道具としても持っておくことは大切かなと思いました。
余談ですが、ハムストリングスの怪我と水平方向の筋力発揮について注目していたところ、ドイツで行われたNSCA Global Conference 2023でもそれをテーマにしたプレゼンがされていて、非常にタイムリーで参考になりました。
Reference
Lahti, J., Mendiguchia, J., Edouard, P., & Morin, J.-B. (2022). A novel multifactorial hamstring screening protocol: Association with hamstring muscle injuries in professional football (soccer) – a prospective cohort study. Biology of Sport, 39(4), 1021–1031. https://doi.org/10.5114/biolsport.2022.112084
Lahti, J., Mendiguchia, J., Ahtiainen, J., Anula, L., Kononen, T., Kujala, M., Matinlauri, A., Peltonen, V., Thibault, M., Toivonen, R.-M., Edouard, P., & Morin, J. B. (2020). Multifactorial individualised programme for hamstring muscle injury risk reduction in professional football: Protocol for a prospective cohort study. BMJ Open Sport & Exercise Medicine, 6(1), e000758. https://doi.org/10.1136/bmjsem-2020-000758
Edouard, P., Lahti, J., Nagahara, R., Samozino, P., Navarro, L., Guex, K., Rossi, J., Brughelli, M., Mendiguchia, J., & Morin, J.-B. (2021). Low Horizontal Force Production Capacity during Sprinting as a Potential Risk Factor of Hamstring Injury in Football. International Journal of Environmental Research and Public Health, 18(15), 7827. https://doi.org/10.3390/ijerph18157827
「ハムストリング肉離れの包括的予防プログラムの実際の効果は。フットボールにおける研究報告」への1件のフィードバック