前回の記事ではアイソメトリックトレーニングの分類について紹介しました。
前回、前々回と2回連続でアイソメトリックトレーニングについてお届けしておりますが、今回より、アイソメトリックトレーニングのPIMAとHIMAを超えたより細かな分類について、更に深ぼっていきたいと思います。
リハビリ初期から活躍。Long Duration ISOとは。

前回の記事で、アイソメトリックトレーニングにはアイソプッシュ (ISO Push)とアイソホールド (ISO Hold) があるとお伝えしましたが、Long Duration ISO(以下、LDIと略します)は、自重や錘に対して関節角度及び筋長が変わらないようにある程度長い時間キープするアイソメトリック様式で、種類としてはアイソホールドに分類されます。
運動時間は10秒から1分程度が一般的ですが、自重であれば2-3分くらいまで伸ばして実施することも可能です (ここまで伸ばすと、かなりきついエクササイズになります。笑)
ざっと、LDIの例を挙げてみました。大きなメリットとして、特に自重であれば特に器具が不要で場所も選ばないことが挙げられます。
加えて静的 (Static)なエクササイズなので、トレーニング前のウォームアップやリハビリの初期段階のエクササイズとして非常に有用だと思います。
これを聞くと「アスリートにとっては強度が低い簡単なトレーニングじゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。
しかしながら、ボリュームを増やしたり、錘を増やして強度を上げれば、時期やタイミングを問わず非常にハードなトレーニングとして処方することも可能です。
負荷調整においても、錘を増やしてキープする秒数をその分調整してあげるだけで、非常に簡単にトレーニングボリューム・強度をコントロールすることが可能です。
基本的には筋肉痛/DOMSが起こりにくいのも、その運用のしやすさの魅力です。
一方で、以前のブログでも触れましたが、アイソホールド (ISO Hold)は自重や錘によって関節が動いたり筋肉が伸ばされたりしようとする力に抵抗して継続した力発揮を行う (故にPosition Taskと呼ばれます。) エクササイズです。
故に、実施者の運動レベルやエクササイズの量・強度によってはアイソホールドによって筋肉痛が起こることがあるのではないかと、個人的には考えています。
ロングデュレーションアイソメトリック; LDIによる筋肥大のメカニズム

Schott et al. (1995)が若年男性を対象に実施したLong (30秒) vs Short Duration (3秒)のアイソメトリックトレーニングの研究では、Long Duration、本ブログで言うLDIの方がShort Durationよりも筋肉の横断面積 (Cross Sectional Area; CSA)に優位な増加が見られたと報告されています。
もちろん、単純に筋肥大を促したいのであれば従来のストレングストレーニング (例えば3×10のスクワット)を用いれば良いわけです。
しかしながら、例えばリハビリや過密スケジュールでの汎用性を考えると、安全かつ低コスト (筋肉痛が起こりにくいと言う観点において)なアイソメトリックトレーニングには大きなメリットがあると私は考えています。
Oranchuk et al. (2019)はShort DurationよりもLong Durationのアイソホールドがより優位に筋肥大を助長する可能性として、長時間の筋収縮がより血流を制限し、その結果筋肉への酸素供給が減少、筋内に代謝物 (Metabolite)の蓄積が増加することにより筋肥大が促されると述べています。
LDIにおいては、筋肉を伸び縮みさせてる機械的な刺激で筋肥大を促す (Mechanotransduction) 従来のストレングストレーニングとは違って、代謝的な刺激によって筋肥大を引き起こしているため筋肉痛も少ないと言うことが言えそうです。
代謝的ストレスによる筋肥大に関しては、Dankel et al. (2017)やFlewwelling et al. (2025)の研究が示唆しています。
これは、In Vitro (試験管内)の実験において明らかになっており、乳酸 (Lactate)や水素イオン (Hydrogen ion; H+)、無機リン酸塩 (Inorganic Phosphate; Pi)といった代謝物の増加やグリコーゲンの枯渇 (Gylcogen depletion) が筋疲労を引き起こすことがわかっています。
この筋疲労が、多くの筋繊維の動員やタンパク同化ホルモンの分泌を間接的に刺激し、結果として筋肥大につながると考えられています。
一方で、In vivo (生体内)の実験においては、人体における同様の現象をサポートするエビデンスが不足しているとした上で、上記のような代謝的ストレスによるAnabolic Role (たんぱく同化作用)について説明しています。
人体研究において、LDIの実施による代謝物の蓄積によって筋肥大が促進されるというメカニズムについては完全に結論が出ていない、というのが実際のところのようです。
これ以上突っ込むとゴリゴリの生理学の話に入ってくるのでここまでとします(私も書いてて頭が痛くなってきました。笑 とは言え生理学的に何が起きているかを理解しておくのも非常に大切だと思います。)。
実際のメカニズムについてはまだまだわからないことが多いのが現状のようですが、現場レベルにおいてLDI非常に有用なツールであることは間違いないと感じています。
ロングディレーションアイソメトリック; LDIによる腱の適応

LDIが非常に有用なエクササイズだと感じるもう一つの理由が、腱に対するそのポジティブな効果です。
Kubo et al. (2001)によると、Short Durationと比べてLong Durationのアイソメトリックトレーニングの方が、筋の力発揮の伝達において重要な腱の剛性 (Tendon Stiffness)をより増加させる傾向にあったと報告しています。
特にリハビリの初期や次々と試合をこなさなければならない過密日程時には、重い錘を持ったり、プライオメトリックスなど、強度の高いエクササイズを入れるのは難しい場合が多いです (リハビリ初期においては特に)。
そこでLDIのような安全でローコストなエクササイズが非常に役に立つと考えております。
例えば、リハビリの早い段階からLDIを介して腱の剛性を担保しておくことで、その後リハビリの中後期においてよりダイナミックなエクササイズを実施したり、ランニングを開始していく際に、より良い準備をさせられると思います。
一方で、腱の適応にフォーカスした場合、Heavy Slow Resistance Training (HSRT)や従来からその効果が認められているエキセントリックトレーニング、プライオメトリクスなど、狙いとする適応に応じた選択が求められます。
個人的にHSRTという呼称自体は初めて聞きましたが、要するに思い錘を筋収縮の全局面においてスローテンポで行う手法で、エクササイズの様式としては新しいものではありません。
腱の適応に関しては、別の記事がいくつも書けてしまうのでこれ以上深掘りはしませんが、非常に参考になるUpsideのブログがありましたので是非読んでみてください。
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ロングデュレーションアイソメトリック; LDIと筋長の関係性について: Long Muscle Length (LML) vs Short Muscle Length (SML)

Oranchuk et al. (2019)はLDIによる筋肥大の効果について、トレーニング時の筋の長さ (Muscle Length)がその適応に関係していたと述べています。
実際に、筋肉が伸ばされた状態 (Long Muscle Length; LML)でのアイソメトリックトレーニングの方が、筋肉が縮んだ状態 (Short Muscle Length; SML)でのそれよりも、筋肥大において効果があったと報告しています。
以上の動画のように、「筋肥大を目的としたLDIを実施するとき」は、ターゲットとする筋の長さ (及びその筋に関連する関節の角度)に着目して処方すると良いかもしれません。
筋肥大ではなく筋力向上を目的とした場合は、トレーニングを行った筋の長さ (ひいては関節角度)においてその向上が認められると言われています。
実際に、SMLではLow Velocity/High Force (e.g. 初期の加速や角度の深い方向転換など)において、LMLではHigh Volocity/Low Force (e.g. スプリントや角度の浅い方向転換)において、それぞれパフォーマンスの向上が期待されると言われています。
まとめ
- LDIはアイソホールドに分類される、10秒から1分程度の時間、自重や錘を用いて同じポジションをキープするアイソメトリックエクササイズ。
- 基本的に筋肉痛を起こしにくく、リハビリ初期やシーズン中でも取り入れやすい、安全で低コストなトレーニング様式
- 代謝的な刺激による筋肥大の効果が考えられているが、実際のメカニズムは完全には理解されていない。
以上、ロングデュレーションアイソメトリックについて、その概要から生理学的なメカニズムまで(かなり浅くで恐縮です。笑)書きました。
繰り返しになりますが、タイミングも場所も選ばず、日々のウォーミングアップやトレーニングに簡単に加えることができる点がLDIの大きな魅力だと思います。
また、筋腱それぞれにユニークなメリットがありそれもまた魅力の一つだと感じています。
ぜひ、リハビリやトレーニングに取り入れてみてください。
では。
Akira
Reference
Schott, J., McCully, K., & Rutherford, O. M. (1995). The role of metabolites in strength training. II. Short versus long isometric contractions. European Journal of Applied Physiology and Occupational Physiology, 71(4), 337–341. https://doi.org/10.1007/BF00240414
Oranchuk, D. J., Storey, A. G., Nelson, A. R., & Cronin, J. B. (2019). Isometric training and long-term adaptations: Effects of muscle length, intensity, and intent: A systematic review. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 29(4), 484–503. https://doi.org/10.1111/sms.13375
Dankel, S. J., Mattocks, K. T., Jessee, M. B., Buckner, S. L., Mouser, J. G., & Loenneke, J. P. (2017). Do metabolites that are produced during resistance exercise enhance muscle hypertrophy? European Journal of Applied Physiology, 117(11), 2125–2135. https://doi.org/10.1007/s00421-017-3690-1
Flewwelling, L. D., Hannaian, S. J., Cao, V., Chaillou, T., Churchward-Venne, T. A., & Cheng, A. J. (2025). What are the potential mechanisms of fatigue-induced skeletal muscle hypertrophy with low-load resistance exercise training? American Journal of Physiology-Cell Physiology, 328(3), C1001–C1014. https://doi.org/10.1152/ajpcell.00266.2024
Kubo, K., Kanehisa, H., & Fukunaga, T. (2001). Effects of different duration isometric contractions on tendon elasticity in human quadriceps muscles. The Journal of Physiology, 536(Pt 2), 649–655. https://doi.org/10.1111/j.1469-7793.2001.0649c.xd